読んで面白かったので皆さんに共有
篠原信「そのとき、日本は何人養える?食糧安全保障から考える社会のしくみ」
農業が社会上どういった立ち位置にあるのか客観的・俯瞰的に理解できました。
もくじ
食べ物は化石燃料で出来ている
近代は化石燃料やハーバーバッシュ法による発明で爆発的に食糧・食品が大量に作れるようになった。
化石燃料
化成肥料・農薬の生成に、農業機械の動力に必要
収穫物の2.6倍のエネルギーを投入する必要がある = 食べ物は化石燃料で出来ていると言っても過言でない
1kcalのお米は化石燃料が2.6kcal必要
ハーバーボッシュ法
空気から肥料を製造する
原料は無尽蔵にある空気(窒素)。アンモニアがいくらでも作れるようになった。
化石燃料など輸入出来なくなると日本は?
化石燃料など輸入をストップした場合、約3,000万人しか養えない。
- 鎖国していた江戸時代と同等の人口
- 江戸時代は人口が3,000万人前後で変わらなかった(それ以上増えなかった)
有機質肥料で有機農業すればいいのでは?
有機質肥料のほとんどは海外輸入。牛糞も元は海外からの輸入飼料。
欧米・中国に比べ、日本の有機農業はわずか0.2%(耕地面積あたり、約1万ha(2017年))
原因は高温多湿のため。
→どうしてもコスト(手間暇)をかけないと有機栽培が難しい
→買い支えるために国民所得に余裕が必要
一方で欧米・中国は大陸性の気候である。
湿度、気温が低めの地域が多い。虫がそもそも少ない。病原菌も少ない。有機農業が容易
農業機械の代わりに人力でやればいいのでは?
人間1日分の労働は石油コップ1杯程度(0.086〜0.26L)
なぜ先進国の食糧・食品は安いのか
先進国は食料を大量生産し価格を安く維持している。
安全保障の観点
- 先進国が食料を大量生産しているのは安全保障の観点から
- 以前は植民地に工業製品を売る、植民地から安価な食物を輸入していた
- 戦争により貿易がままならなくなった場合に自給率が低い→飢餓に苦しむ経験から
- また、エンゲル係数が低いと食物以外にお金を使えるようになり非農業分野が発展していく
- そのため、食料を安価に作り続けられるように国が農家に補助金を出している
- 余ったものは安価に輸出するほど余裕ある食料数を保持
- 結果、発展途上国の農業が太刀打ちできず貧困状態から抜け出せない
国の経済を好循環に回すため
- 工業やサービス業など他の仕事がたくさんある
- 食料が安いほど生活費が浮き、自動車やスマホを購入したり旅行や趣味にお金を使う余裕が生まれる。
- その結果、農業以外の産業がますます発展する。
- 非農業で働く人達の給料が増え、さらに消費を増やすという好循環
- 安い食料は非農業の産業がしっかりしている国では、国の経済を好循環に回す重要な手段
- 安くするには余分に作れば良い。余ると市場原理が働いて安くなる。
- 価格が暴落しすぎないように輸出で調整する必要がある。
日本はどうか?
国土面積が小さいため国内だけで食料を作れない。
非農業の産業が盛んなうちは国外から安く輸入しても問題ないが、これからはどうだろうか?
- 農業と非農業を分けて社会構造を考えるとわかりやすいですね
食品ロスを無くそうは良いこと?
野菜農家が捨てている形の悪い野菜(B級品)を買い取り、消費者に安く提供する。
- 農家は売物にならないものが現金になる
- 消費者は安く食品が変える
- 食品ロスは減る
3方良しか?
スーパーに並ぶ妥当な価格の野菜に手を出さなくなる。野菜が売れなくなる→農家の売上が減る。
無料や安売りの怖さ
究極のダンピング(不当な安売り)
消費者は生活費が浮いて助かると考え、ついそのサービスを利用してしまうが、そのサービスを有料で提供する労働者の生活が破綻する。労働者は同時に消費者でもある。その人たちが消費を減らしてしまう。
デフレスパイラル
安いものを提供する → 従業員の人件費を減らす →従業員の消費は減る→地域全体の売上が減る
- たまに直売所で年金暮らしの高齢者が激安で野菜を販売している(販売を趣味や小遣い稼ぎにしている)ことがあるが、上記のような減少となり好ましくないですね。少なくとも同業で農業を生業にしている人は大打撃だし。
大規模農業経営へ
農業従事者
2000年 389万人→2020年 152万人(全人口の1.2%)
非農業産業の発展と農業従事者の高齢化による。
農業経営体
2020年 109万(60年前の1/6)
耕地面積 | 農業従事者 | 耕地面積/人 | /GDP | 補助/所得 | |
日本 | 273万ha | 152万人(総人口の1.3%) | 1.8ha | 1.0% | 15.6% |
フランス | 2271万ha(日本の10倍) | 77万人(総人口の1.14%) | 29.5ha | 1.37% | 90.2% |
アメリカ | 3億6431万ha(日本の81倍) | 340万人(総人口の1.0%) | 178ha | 1.14% | 26.4% |
GDPに占める割合 > 農業従事者率 であれば、他産業よりも稼いでいると言える。
フランス:20%(1.37%/1.14%)
アメリカ:14%(1.14%/1.0%)
日本:-23%(1.0%/1.3%)
小規模農家がたくさんいると、補助の総額が増えて大変
補助の総額を減らすには大規模農業を推進し農家を減らすこと
農林水産省は早くから大規模化を進めることを考えていたが
- 人口が多すぎる
- 雇用の受け皿として農業が大きな役割を果たしてきた
- 戦後5年の1950年時点では45.1%が農業
- 農地解放の喜び
- 戦後、地主から土地を安く買い上げて小作の人たちに渡す農地解放が行われた
- 米の買い取り価格を高めに設定
- 農地が自分のものになり作れば作るほど買い取って貰える喜び→手放さない心理
- 日本列島改造
- 公共工事で道路網、鉄道網を設ける
- 田んぼの一部を売ったら家が建った
- いつか土地が高く売れるかもという期待
- 兼業化と機械化
- 農業の機械化が進み、週末だけでどうにかなった
- 平日は勤め人で収入が安定し農業をやめる理由が弱くなった
- 山がちな地形
- 耕地面積の4割は傾斜地
- 平らで広大な田園にまとめることが難しい
- 団塊の世代が引退するとさらに農業従事者は激減する筈。
- 5〜10年待てば若い世代には好機か?
- 農業先進国「オランダ」の数字を独自に調べてみると耕地面積 100万ha、農業従事者 20万人(総人口の1.1%)、GDP割合 1.65% → 他産業と比べての稼ぎ率 約50%。すごっ。
- オランダは農水省が無く、経産省の管轄らしい。完全にビジネスとして農業を捉えている(not 安全保障)
農林族の政治力
1950年:働く人の45%が農家
農業は票になった。政治家は農家に常に気を配った
2020年:1%強でしかない。票として大したこと無い
GDPに占める割合も1%。経済的な存在感も薄く、票にならない
さらに大規模化進めると携わる人数が減る
→さらに票にならない
- 昔は農家、JAの組織票が選挙で勝つ上で重要だった印象だけど、年々影響力無くなってきてるのね。
- 小選挙区制で選挙区の当選者数も都心に偏ってきたし。
- そういった中で安全保障という観点で国がどこまで力入れられるか。
読んで考えたこと
農業をビジネスとして検討しようとしている自分
- 大規模農業 経営者として生命維持に必要な食糧を作り、補助金ありきで安定した収益を目指す
- 小規模農業 経営者として付加価値を付けて食生活を豊かにする食品を作って収益を目指す。さらに農業を”サービス”として考え、販売=収益だけにこだわらない
が考えられるが、後者は非農業の産業がどれだけ発展して、彼らが高付加価値のものが買える余裕があるかに依存する。
日本がこれから発展するのは現実的でないのでどうしても海外に目を向ける必要がありそう。